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新潟地方裁判所 昭和49年(ワ)311号 判決

原告 有限会社栗山毛糸店

右代表者代表取締役 栗山一郎

右訴訟代理人弁護士 平沢啓吉

引受参加人 有限会社更科

右代表者代表取締役 袖山作司

右訴訟代理人弁護士 小出良政

脱退被告 河井敏雄

主文

引受参加人は原告に対し別紙第三目録記載の建物のうち、階下部分で別紙第二目録添付の図面上B、E、(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、Bの各点で表示する地点を順次に直線で結ぶ範囲の屋内とその出入口部分につき、地表面より二メートルの高さに達するまでの空間に所在する床板、根太を含む床組み及び柵等一切の設置又は備付物の撤去をなし、且つ右図面上(7)とBの二点で表示する地点間にある扉にある施錠はこれを取外しその用を廃さなければならない。

原告のその余の請求をすべて棄却する。

参加後の訴訟費用で引受参加人との間で生じたものは、これを三分し、その一を引受参加人の、その余を原告の負担とする。

この判決第一項は、原告において金二〇万円の担保を供することを条件として、仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、

主位的請求として

「引受参加人は原告に対し別紙第二目録記載の浄化槽に跨り建築した別紙第三目録記載の建物全部を撤去せよ。

訴訟費用は引受参加人の負担とする。」との判決、

予備的請求として

「引受参加人は原告に対し別紙第二目録記載の浄化槽に跨り建築した別紙第三目録記載の建物のうち同第二目録添付図面上F、B、A、D、Eで表示する各点を順次に直線で結んだ範囲一二・一一〇五平方メートル上の部分を撤去せよ。

訴訟費用は引受参加人の負担とする。」

並びに仮執行の宣言を求め、

請求の原因として、

主位的請求につき、

一  原告は別紙第一目録記載の一棟の建物のうち(三)及び(四)に記載の専用部分を区分所有している。

右建物の他の区分所有関係は、脱退した被告河井敏雄及び訴外株式会社大谷屋が、同目録(一)及び(二)に記載の専用部分を各自二分の一宛の持分をもって共有している。

二  別紙第二目録記載の浄化槽は上記一棟の建物の付属物であり、従って建物所有者が共用上各自の利用上の持分(原告につき一三九六・一分の六九八・〇五である)に応じてその権能を有する性質上の共有物である。

そして浄化槽はその機能を十全に保持するために法令にも定められている清掃が必要不可欠であり、点検、修理、薬液充填等のためにも随時自由な設置物への立入が必要で、埋設されているとはいえ、建造物のごとき重量物をその上に構築又は設置することは、法令上も禁止されているものである。

三  しかるに、前記河井は、本件浄化槽に跨り、別紙第三目録記載の建物(本件建物)を築造所有したが、その後これを引受参加人に譲渡し、引受参加人はこれを原因として昭和四九年一二月一一日付をもって本件建物につき引受参加人名義による所有権保存登記を経た。

四  原告は浄化槽の一共有者としてその保存のため、物権的妨害排除請求権を行使し、引受参加人に対し浄化槽上の違法な妨害物である本件建物全部の撤去を本訴により求める。

と述べ、

予備的請求につき、

五  仮に主位的請求のように浄化槽上の本件建物全部の撤去が認められないとすれば、引受参加人は原告に対し本件建物が直接本件浄化槽上にある部分は、これを撤去する義務があるので、同様の理由によりその部分の撤去を求める。

と追加して述べ、

引受参加人の主張に対し、

一  引受参加人が第一項で主張する本町通五番町二五三番二の宅地は、昭和四九年一月二二日訴外株式会社大谷屋により分筆されて生じた地番であり、引受参加人はこの時期に右地番の土地を浄化槽埋込のまゝ取得したのである。かような事情下で土地の利用方法が制限されているのを知悉して取得した本件建物の所有者である引受参加人は、原告に対し土地使用権の有無をもって争う資格がない。

二  妨害排除請求権の内容につき引受参加人が第二項で述べる抽象の議論は全部争わない。しかし、実際に浄化槽上に建物が築造され、水中ポンプの点検修理や、その清掃のために常時開閉可能にしておかなければならないマンホールの上に床が張られ、そこに居間が造られている現状で、しかも本件建物が構造上一体を成していることを考えると、妨害除去が法認される限りその全部撤去は真にやむを得ない事柄というべきである。

三  本件建物以前に旧平家建建物があったことは争わないが、旧時の所有者訴外細野幸一郎が築造したのは間口三メートル、奥行四メートル程度のダンボール空箱や縄類の収納用の仮設建物であったのであり、しかもポンプ槽、薬液槽はその内部にあったが、床が張られていないために各槽の手入については何の支障もなかったし、簡単な扉が小屋に付設されてはいたが、施錠器具は全然使用されていなかった。前所有者は右仮設建物の築造に承諾を与えた訳ではなかったのである。

仮に原告の前所有者が引受参加人主張の建物設置の承諾を与えたとしても、その効果は特定承継人に及ばず、区分所有者、付属設備の共用者間に約諾の成立を見た規約又は適式な集会の決議の存在のごときは、いずれもないものである。

四  本係争中に応急の措置として浄化機能を回復させる手段を講じたことがあるが、設備本来の機能に即した根本的な解決には到達していないし、特に重量物に対する安全性の見地からの検討はいまだ全くなされていない。

もっとも現在ポンプ槽の使用をしなくとも、薬液槽に水中ポンプの設備をするのであれば、浄化槽としての機能が保持されることは認める。

五  第五項の主張は争う。

と述べた。

《証拠関係省略》

引受参加人訴訟代理人は、

「原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求め、

請求の原因に対する答弁として、

一  第一項の事実は認める。

二  第二項前段の事実は認める。後段の主張事実は争う。

三  第三項の事実は認める。

四  第四項の主張は争う。

五  第五項の主張もまた争う。

と述べ、

引受参加人の抗争として、

一  本件浄化槽が設置してある場所は、その一部は本町通五番町二五三番二の宅地二二・五三平方メートルであるが、その隣地同町四一九番二の宅地一八・五一平方メートルと共に、所有権は従前から引受参加人に属していた。しかるに、原告、河井敏雄、株式会社大谷屋のいずれの者も右土地につき引受参加人との間で、適法なる占有すべき権利の設定を受けてはおらず、原告等が同土地との関係で排他独占的に妨害排除請求権を主張できる根拠は存しない。

二  浄化槽は埋設されるものであるが動産である。動産の所有権に基く妨害排除請求権は仮に認められるとしても、無制約にその上下、前後、左右に及ぶものではない。その用法に従った利用に応じ、妨害の程度、態様に即した相応の限度内でのみ認められるに過ぎない。

三  本件建物は、原告主張の共有建物の付属建物として旧時に築造してあった平家建建物を、河井敏雄が二階建に増改築したものである。そして右平家建建物については、原告が専有部分の所有権を取得する以前から、前所有権の承諾を得て本件浄化槽上の現位置に築造されていたもので、引受参加人が本件建物を所有するとしても、それにより原告の権利を害することは何ら生ぜしめていない。

四  本件建物と本件浄化槽の位置関係について見ると、本件建物の存置により使用できなくなった装置は押入直下部分にある装置のみであり、右装置は代替の装置を操作可能な位置に設置したことで現在機能を回復発揮しており、従って原告主張の妨害行為は仮に一時あったとしても現存しなくなっている。

五  本件浄化槽は設置自体が旧式であり、附近一帯は既に公共下水道が敷設済である。衛生の公共目的から見ても直流式に改めることが望ましいうえに、前記河井は原告に対しこれまで再三にわたり直流式への切替を提案し、昭和四九年七月見積の工事費用金六九万一七二〇円についても、大半は自己が負担することを申出て来た。それにも拘らず原告は本件建物の撤去にのみ固執し、他の解決案には一切耳を藉さない態度で来ている。

以上の各理由で原告の本訴請求は主位的請求、予備的請求のいずれも許されない。

と述べた。

《証拠関係省略》

理由

一  請求原因に掲げる事実は、原告が本件浄化槽につき主張する権利に対する本件建物の妨害性と妨害排除請求権の存否に関する部分以外は、すべて当事者間に争がない。

原告が建物共用上の付属物たる浄化槽につき性質上の共有であると説き、妨害排除請求権を右共有に基礎づける点については、当裁判所としても格別の異見を挿むものではない。しかしながら、飜って引受参加人が述べる浄化槽所在場所の土地所有権に対する関係では、その本来の関係に立戻りいま一度検討を加える必要が存しないとはいえない。けだし、原告自身その弁論において必ずしも明瞭に述べているとは断言できないが、しかし、その全体の所論から推すと、原告は右関係土地に浄北槽を設置するについては設置時の土地所有者の明示の承諾を得ている旨、及び右のように約定によって設定を見た浄化槽維持のための土地使用権については、その後に土地所有者の変動があるとしても、特定承継人に対抗できる旨の法律構成を言外に提示していると指摘できるし、右土地使用権に支えられた設備即ち動産(本件浄化槽)の物としての特性に基づく妨害排除請求権という権利の性格を前面に掲げるのでないとすれば、原告主張の請求権は余りにも本件の係争関係につき委曲を尽さず結論のみ示した議論となる惧れがあり、更に引受参加代理人も、本件浄化槽の設置自体については、これが適法でない旨の抗争は何らしていないからである。

そこで、この点について調べるのに、《証拠省略》によれば、本件浄化槽を使用する建物(本町ビル)の共同の建築計画の提案とその実現に至るまでの経緯については関係者間に種々の事情があったが、それはともかくとして、浄化槽所在場所は新潟市本町通五番町旧二五三番、二五四番の両地番上であり、右土地に跨っていることゝ浄化槽利用は右主建物居住全関係者の必要に由来するものであることから、設置の当時(昭和四〇年七月頃に別紙第一目録記載の建物の建築着工があり、翌四一年六月頃に完工したので、本件浄化槽も右の時期頃に土地の使用権が設定されたものと判断しなければならない)において右建物の実質上の所有者であり且つ右地番の土地の所有者であった訴外細野幸一郎及び同井上芳一(但し井上は地上建物につき所有名義人は合資会社井上商店とした)は、互に所有の地上に構造及び機能上分割することができない一体の本件浄化槽の設置につきその必要認めて同意し、その同意により相隣地上建物使用に基づく排水処理のための便宜供与につき各自が相手方の施設に対する持分に応ずる範囲で目的達成の必要の限度で土地の使用の応諾をなし、これを契機として両名は、当該設置場所につき、設置する施設の埋設と維持に必要な地下一定の層までの間と、地上の装置の敷設と維持管理に必要な限度で、工作物としての浄化槽設置のため、利用範囲を区分される形での地上権を互に設定したと認めるべき客観的情況が存したことを認めることができる。そして右の権原はまさに民法第二六九条の二にいわゆる区分地上権に該当するものを約諾当事者が互に認識して合意を取交したものと解することができ、原告はかゝる前権利者の約諾合意をなした事実を援いて本件浄化槽の物権的妨害排除請求権を構成し、主張としては浄化槽自体の物権的請求権という最も外形的な概念をもってその主張を提出しているものと解される。

原告の主張が有体物の効用又は支配から演繹される物権的請求権だけに終止しているというのは到底当らないところである。

そして、《証拠省略》によれば、右のようにして設定された本件浄化槽設置及び維持のための地上権は、主建物である前記第一目録記載の建物につき区分せられた所有権に従い、旧所有者(前記のとおりであるが、融資を得るために訴外新潟県住宅公社の名による形式をもって保存登記がなされた)よりそれぞれ原告又は被告河井敏雄外一名に至る所有権移転登記がなされるに及び、原告は自己の建物所有権の取得の登記により、主建物の付属物たる本件浄化槽設置維持のための地上権についても、建物保護ニ関スル法律第一条の適用を受け適法な対抗力を取得したものといわなければならない。右に示したような内容の対抗力は、原告の所論の中におのずと滲み出ており、原告の主張の以上の認定による補正も、要は法律上の主張の性格づけに関する問題であるから、引受参加人についてはもとより脱退した被告についても特別の不当な不利益を訴訟上課することにはならないと思料される。

そしてまた以上のことは原告が単独で提訴し、浄化槽の一共有者の資格でその持分に基づく妨害排除請求権を主張している本訴訟という断面を捉えるに当っても、同様に当然の理解として取入れなければならないところであるし、また権原の性質論に関することであるから、妨害排除の請求範囲について当否を検討するうえでも看過できない視点にかかることだということができる。

二  次に動産の場合の物権的妨害排除請求権について引受参加人はこれを争うので、この点を一般的見地から若干検討するのに、動産であってもそれ自体に著大性があるような場合には、その占有にかゝる状態からおのずから社会生活上他との接触摩擦を生ずることを免れないし、その範囲で形状と用法に従い妨害排除の具体的な法律上の手段が恒常的に与えられなければならないものというべきであり、また本件浄化槽のごとく不動産の付属物であって処分については民法第八七条第二項により主物に従うとすべきであるが、物自体の支配権能が端的に妨害排除の主要な理由を用意するような場合があるとすべきであり、あえて不動産の利用権に依存しないでも排除請求は外形的には成立の余地があるとしなければならないことがあるから、各場合の物の特性によってその備える内容が異なるのは措くとして、当該の物が動産であるからとの一事でたゞちに物権的請求権が全面的に否定されるということはないとしなければならない。前項末段に記載した権原の性質と動産の有する社会的効用と相待って本件における浄化槽設置及び維持上の妨害排除請求権の存否及び内容、その条件と限度が定められなければならないと考える。

そこで進んで浄化槽の設置及び機能維持のために、いかなる範囲まで他からの侵害又は妨害に対して法の保護があるべきかの点に関して検討するのに、まず原告はその安全性確保のために浄化槽上の建物の建築は一切禁止されていると述べ、証人秋山正も同趣旨の証言をしている。《証拠省略》によると、本件浄化槽の壁体は厚さ一五〇ミリメートルのコンクリートをもって設計されており、底面には厚さ五〇ミリメートルのモルタル塗装が予定されていたことが認められる。この程度での浄化槽に対し地上に重量物である家屋の築造をなすことが何程かの悪影響をも齎さないで済まされるとの推論は採りがたい。しかしながら、浄化槽の設置維持に対する具体的危険の立証は何もなく、また右にいう禁止の法令上の根拠も明確ではない。のみならず取締法令上の禁止がたゞちに本件における物権的請求権の帰趨を決するものではない。もっとも、下水道法第二条第八号に規定する処理区域内における水洗便所及び屎尿浄化槽の設置に関する建築基準法第三一条第一項、第二項の定め、排水設備の設置及び構造に関する建築基準法施行令第一二九条の二第一項、第三項の定め、並びに昭和四四年五月一日建設省告示第一七二六号「建築基準法施行令に基づく屎尿浄化槽の構造を指定」によれば、浄化槽はその一般構造として、漏水事故を生じない構造であることに最重点が置かれ、そのほかに槽内の点検、汚泥の管理及び清掃が容易にできること、並びに防臭装置の完備すること等の要請の充足が必要とされており、右のような機能保持は設備が自他により毀損されることなく、保守管理上の障害もないということにより確実に保全され得ることが窺われ、一方では廃棄物の処理及び清掃に関する法律第八条各項の定め、及び同法施行規則第四条第二項、第四条の二第三項、第七条の各定めによれば、機能保持、公衆衛生上のための一般廃棄物処理施設としての浄化槽管理者の維持管理上の法定の遵守事項が定まっていることが認められるので、これらの法令のあること等に照らせば、《証拠省略》をも併せ考えて、本件建物が本件浄化槽の維持管理に対して、とにかく妨害を形成していることだけは明瞭で、その妨害性は、程度は別として、否定する証拠は何もないといわなければならない。

三  妨害の程度等につき引受参加人は本件建物築造以前の平家建建物があったことに触れるから、次にその点につき判断する。

旧平家建建物があったことは原告も認めるところである。しかし《証拠省略》によると、旧建物については原告主張のとおりの簡易構造で、基礎となるべき土台もなくトタン葺でいわば仮設建物というにふさわしく、殆んどが土間敷であって扉に施錠もなく、浄化槽の手入、清掃には当時日常のうちに支障を来したことは全くなかったことが認められる。但し、《証拠省略》中の本件建物は旧建物の増築であるとする関係部分は全面的に信用できない。更にこのような旧時の建物の構造であったことと、検証の結果に見られる本件建物の堅牢な構造であることとを対比して考えれば、旧時の建物の存置と利用は、本件建物の築造所有と、妨害性の点では顕著な差があり全く隔絶しているから、旧時の妨害性の問責又は免脱はいずれにせよ本件建物の場合のそれに何ら関係や推定の根拠とならず、この点の引受参加人の立証はいまだ認めるに足りないというほかない。そして前段までの認定事実と右に認定した事実によれば、現在の時点で本件建物が本件浄化槽の維持管理に妨害事由を形成していないとすることはまことに当を得ず、引受参加人の主張は採用できないというべきである。

四  そこで、本件建物の齎している妨害の実際の程度につき更に検討することゝする。

上記のような妨害排除請求権の性格のほかに、《証拠省略》を総合検討すると、本件建物が設置されて以来原告は浄化槽の維持管理のためであっても、本件建物内の設置部分に立入点検することができず、マンホールの幾つかとポンプ槽については、その所在と現状すら確認する手段がなく、ポンプ槽は居室の床組の下に置かれることになって完全に使用不能になり、これは後にポンプの故障、浄化不能を招来する原因となったこと、また薬液槽は通常の用法で薬液の充填が不可能であり、既設の消毒槽を臨時にポンプ槽に切替使用しているが、様式及び容量による等のため十分な消毒浄化の作用が果されずにおり、ことに本件建物内においては消掃業者といえども床板張りや狭隘のために十分な清掃が実施不可能であること、一方浄化槽維持のためには元来年一回以上の清掃が義務づけられており、その外にも必要の都度排水の濾過、酸化、消毒の諸措置をマンホールを開けて施行することが必要で、本件建物築造以前には、原告の前所有者井上芳一が随時労を嫌わずに自らその措置に当っていた事実があったこと、他面で本件浄化槽所在地区には既に公共下水道の完備したものがあるが、しかし近隣で従前から浄化槽の設置をしていた者が大半でも下水道への直流方式に切替えている現況であるとは認められないこと、もっとも管理に手を尽し、なお右のように使用不能のポンプ槽の機能に替えて薬液槽内に水中ポンプの設備をすれば浄化槽としての機能は完全であることは原告も認めているが、しかし原告と引受参加人との間で、或いは脱退被告を加えて三者の間でも、合意により排水に関し本件浄化槽の用法の変更を相互に認める解決の方途はいまだその方途すら見出し得ていない情況にあることを認めることができる。

右の認定によると、原告に対しては引受参加人において本件建物を所有するのを基本の原因として、浄化槽の維持管理に必要な立入、器具搬入、清掃、消毒の作業実施に対しそれぞれ障害を来す限度で、扉の施錠、間仕切、床板敷設、柵の備付の各態様ごとに、原告主張の妨害の事実があるものと認められ、その範囲では、結局原告の排除請求権は理由があり認められるとしなければならない。

引受参加人の第四、第五の抗争については以上で判断を示したとおりであり、なお河井敏雄が直流方式への切替と費用相当範囲の負担の申出をなしたとの主張事実については、費用の見積に関する成立に争のない乙第二号証があるだけで、その確証がないといわなければならない。かえって同被告本人の尋問の結果中には、同被告は引受参加人に本件建物を、本町通五番町二五三番の二、東堀前通五番町四一九番の二の各土地と共に売却したが、その際に、浄化槽施設維持のため、賃借名義で年間金三万円を支払う約定をなしたとの陳述部分がある。この関係陳述から判断すれば、同被告には原告に対し過大の迷惑を掛けたくない意思があることを推認できるが、しかし直流式に切替えるのが至当であり、従前の浄化槽としての機能は廃止すべきであるとし、従って原告の妨害排除請求はもはや問題にならないとまで客観的に言い得る程度の積極性で従来から原告に対し改変を申出て再考を促していたか否かについてはなおこれを肯認するに足りる立証はないといわなければならない。

五  ところで、原告の主位的請求と予備的請求は撤去を求める部分の広狭の差があるに過ぎず、予備的請求の範囲だけでは上記の認定に従い妨害の除去がなお不十分であるので、主位的請求について当否を決することになるが、本件建物全部の撤去が理由がないことは縷々上述したとおりであるところ、そのうちで別紙第二目録添付の図面上B、E、(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、Bの各点で表示する地点を順次に直線で結ぶ範囲の階下部分につき、地表面より二メートルの高さに達するまでの空間の範囲では、同所に所在する床板、根太を含む床組み及び柵等一切の設置又は備付物の撤去を命ずべきが至当であり、(薬液槽については《証拠省略》によりそのマンホール上に本件建物の床下の構造が一部かゝっていることが認められ、このまゝではマンホールを開けることはできないのであるが、《証拠省略》によれば、かような条件下でも薬液の充填注入は可能であると認められる。)併せて(7)点とB点を結ぶ部分に存する扉の施錠はこれを取外しその用を廃するよう命ずべきであり、これらの範囲で原告の請求を認容し、右の範囲を超える妨害物撤去の請求は理由がないので、その余の主位的及び予備的のいずれの関係請求をも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡山宏)

〈以下省略〉

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